ただぼうっと部屋の隅を見つめる。
なにもする気が起きなくて、ただそこを見ていた。
なにもする気が起きないのは、今考えている事の所為なのだけれど。
考え事をする時は部屋の隅を見る癖がある。
「おい」
「・・・」
「」
「・・・」
ああ、メロが呼んでる。返事をしなくちゃ。
メロの表情はみるみると不機嫌なものに変わっていった。
「・・なに、メロ」
「トロイんだよ、なにボケッとしている」
「ん、ちょっと考え事」
「そんな事ぐらい分かっている。
何を考えていたのか聞いているんだ」
「生きる事についてかな」
あたしがそう言うと、なぜか益々不機嫌な顔になった。
「・・・で、生きることの何についてだ」
「生きる意味について。
人はいつか死ぬのに、死ぬまでに何かをする意味があるのかって事。
最後は死ぬんだから、結婚をしても、勉強をしていい会社に入っても、一生無職で
も変わらないと思うの」
「・・・」
こんなことを言っても、どうせメロには伝わらないんだろうな。また変な女だって思われるかもしれない。
まあ、しょうがないか。
「・・馬鹿かお前・・」
ほらね、やっぱり変な女だと思われてる。
「生きるのにいちいち意味なんていらねーんだよ」
・・・
「じゃあどうしてニアをいつまでも嫌うの?
これにも意味なんていらないって言うの?
そんなのただの我侭じゃない。
これだって生きる意味の一つだよ」
あたしは今存在している全てのものに意味を求めたい。生きている意味を知りたい。
「・・ニアの事はお前には関係ない。
それよりはそこまで生きる事に疑問を抱きながらなぜ死のうと思わないんだ?」
「それはただ、あたしが臆病だから」
「・・・馬鹿かよ」
「それでも死ぬのは怖いの。
どうせ死ぬ気がないなら、生きる意味ぐらい知ってたっていいと思うの」
メロのさっきの不機嫌な表情から、眉間の皺がより一層深く刻まれている気がする。
そのままの顔でチョコを一口齧ると、近くにあったソファにどっかりと腰掛けた。
下を向いて何か考えているみたいだけど、垂れ下がった髪で表情の変化も見ることが出来ない。
何を考えてるんだろう。あたしがさっき言った事、ニアの事、マットの事、チョコの事、
あたし以外の女の事、Lの事、キラの事。
どのことにしても、メロが不機嫌なのは変わりないと思う。
・・メロきっと怒ってる、きっとイライラしてる。
きっとそう
「・・じゃあこういうのはどうだ」
「ん?」
「俺のために今を精一杯生きることをお前の生きる意味にすればいい」
「・・それってどうゆう意味」
「そのまんまだろ」
「あたしにメロを好きになれって言ってるの?」
「・・・」
おかしい。メロじゃない。
メロは仲間で友達で・・恋愛対象として見たことなんて一度もなかった。
こんなのおかしい。こんなのメロらしくないじゃない。
顔を上げたメロは顔色一つ変えずにチョコを齧る。でも残りのチョコもあと少し。
いいかげん、特別冷えているわけでもないこの部屋の温度とメロの体温で、見た目には分からないけど、チョコは溶け始めているみたいで、いつものパキッという音は聞こえなかった。
初めて見る。溶けかかっているチョコを食べているメロなんて。
いつも一緒に居たけど、なぜか気付かなかったみたい。
どうしてこんな時に限って冷静なんだろう、あたし。
メロはあたしの言った言葉を否定しなかった。いつものメロならこれは肯定の意味だけど・・
「俺の女になれ」
「・・メロ」
こんなのおかしい。メロじゃない。でも顔も声も性格も全ていつも通り。メロそのものだった。
「お前が生きる意味は俺が居るから。だから生きている。
それでいいだろう」
・・・今までのはあたしの勘違いだったんだ。おかしいのはメロじゃない。
あたしだったんだ。
気付けば頭が混乱して今にも倒れそうだし、心臓もうるさいほどに音を鳴らしている。
「・・メロ、あたしには十分すぎるほどの生きる意味が見つかったね」
「・・・そうかもな」
「あたし、メロのために生きるよ」