なんとなくテレビのチャンネルを回して目に付いたニュースを見て、あたしは自分の目を疑った。キラ代弁者として使われていた高田清美の死を告げているニュース・・・そんなものはどうだっていい。重要なのはそれと一緒に取り上げられている銃弾の痕だらけの、メロとマットが使っていた車だった。
ほんとうに穴だらけではあったけれど、あたしがあの2人の赤い車を見間違えるはずはなかった。その映像とほぼ同時に映し出されたのは激しく炎上している教会の映像だった。どうやら高田はその教会で焼身死体として発見されたらしい。アナウンサーの話によると、焼身死体は2体見つかっていて、内1人は身元不明の者だという。
穴だらけの車の映像には、仰向けに倒れている男の人が映っていた・・・マット・・・、だ。血だらけのマットは、射殺されたと報道されている。マットが・・死んだ。テレビ画面のうすっぺらいマットはまだ煙草をくわえたままで、血だらけではあるけれどとても死んだだなんて思えなかった。思いたくない。回りには取り巻きがたくさんいて、マットはやがて救急車に乗せられて連れて行かれてしまった。テレビでそんなものを報道するなんて、悪趣味だ。
メロのことは、なにもわかっていないみたいだし映像もないけれど、きっと、教会で高田と死んだ身元不明者がメロだと思った。キラに殺されたんだと、思った。ガソリンの引火が原因だと言っているけれど、メロはそんなヘマをやらかすような馬鹿じゃないし高田だってメロと一緒にいたのだから自由の身ではなかったはずだ。そんな逃げられる確証もない状況でわざと自分の身を危険にさらしてまで引火をさせる訳はないしそんな度胸はあの女にはない。実際に会ったことはなくてもテレビを見ていれば分かる。
だとするとキラの線が濃くなる。キラに、2人は殺された、マットはともかくメロは、おそらくキラに操られた高田に殺されたはず。あたしは、くやしくてくやしくてくやしくてくやしくて、涙がでた。メロもマットもあんなに憎んでいるはずのキラに殺された。あたしの大切な人は、キラに殺された。もう2度と逢うことは出来ないんだと考えると、さらに涙が溢れる。あたしは、弱い。
いつのまか、泣きつかれて眠っていたようだ。まだ、瞼は開かない。とっくに起きている、意識もはっきりしている、こうして考えている。つけっぱなしだったテレビの音だって、聞きたくもないのに耳に入ってきている。だけど、瞼は開かない。開きたく、なかった。目を開けた世界があたしの世界じゃなくなっていることが こわい。あたしの知らない世界がこわい。あたしの大切な友人、愛する人がいないことが、とてつもなくこわい。
目を開けた世界には、昨日見たニュースのように、彼らの死という現実をつきつけるものがあることが、つきつけられてしまうことが、こわかった。硬く瞼をつぶって寝たふりもしてみるけれど、一度冷めてしまった眠気はあたしのところに帰っては来なかった。溜息をひとつ、諦めてあたしはそっと瞼をひらく。知らない世界を、はじめて見た。泣きはらした目は腫れぼったくて少し重たい。まだ夜明け前のようで、窓から日が射していて清々しい夜明けを迎えられる、なんていうことはなかった。テレビに目をやると、さっきから嫌でも耳に入ってきていた昨日のニュースと同じもの。映像も使いまわしだ。
あたしは決心を固めて2人がこっちで使っていた部屋へ向かうことに決めた。メロとマットが、最後までいた場所へ行きたかったから。もともと場所は知らされていたし、あたしの家からそう遠くもなかったから、すぐに来ることが出来た。
鍵のかかっていないドアノブを回すと、何もない殺風景な空間が広がった。きっとメロもマットも今回のことには命をかけていたから、覚悟をしていたのだろう。荷物は一つ残らずかたずけられていた。残っているのは、ほんの少し香る、メロのお気に入りだったチョコレートの甘い香りとマットのお気に入りの煙草の香り、2人の別々の香水の香りがした。微かな残り香とあたしの記憶も手伝って、この殺風景な部屋に2人の面影を見つめていた。
「あいたい」
だれもいない部屋で、小さくつぶやいた。昨日さんざん泣いたのに、あたしはあたしの知らない世界がこわくてたまらなくて、2人の面影を見て、さみしくて・・・馬鹿みたいに、泣くことしか知らないみたいに、ないた。2人の残り香に包まれたまま、部屋にはあたしの情けない嗚咽が響いた。
「メロ・・マ、っと・・・」
だけれど、返事は返らない。あたしはひとりだった。










     世界の終焉を見た子羊

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Tagtraum