あたしとマットが付き合い始めてからどのくらい経ってからだったか、そんな事も覚えていない。
あたしにはそんなことを覚えているほど強い心はなかったし、今だってマットのしている事に怒る気力も、勇気もなかった。きっと、今日も。

「ただいま、マット」
「あ、おかえり〜」

声をかけると共にドアを開くと、マットの声と、部屋中にたちこめる独特のにおい。あたしの知らない香水の香り。(また、だ)
部屋やベットに特に変わったところは見当たらず、あたしが部屋を出たときと同じように整頓されていた。ここまでするなら、窓を開けて女の匂いも消してくれれば気が楽なのに。
マット本人は何食わぬ顔でいつもみたいに煙草をふかしながら昨日買ったばかりのゲームをしていた。
随分と前から、マットの浮気には気付いていた。(気付かない方がおかしいけれど、)はじめてこんな事があったときには、あまりにショックで玄関で泣き崩れてしまった。なのにマットは本当に心配そうな顔をしてあたしを優しく抱締めてくれるものだから、一層悲しくなって、マットにどうした、と訊かれてもただ首を横に振ることしか出来なかった。
あたしは、マットに愛されていたかった。それからずっとマットのしている事には気付かないふり。どうしてこんな事をするのか、泣き叫びたいほどに悔しいけれど、問い詰めるような真似は一切しなかった。真実を知る事が、こわかったから。
それにマットはあたしが気付いていると知らないで(知っていているのかもしれない)今も優しくしてくれている。その事に、あたしをまだ手離したくない理由があるんだと思えたし、なによりもあたしがマットを誰よりも愛していて、どうしてもマットの傍にいたかったから(マットはあたしの全てだから)
マット、苦しいくらいの我慢をたくさんしたよ、おかしくなりそうな位にあなたを愛してたよ、愛してるよ。なのにどうして?ねえマット。あたしを手離したくないんだとしたら、どうして、(浮気、なんか)ちゃんとしっかりと、あたしを離さないでいてよ。もっとしっかりと捉まえていてよ。あたしだって、どこかへ行ってしまうかもしれないのに。

「・・・、どうした?
「っ苦しい、よ・・マット」

ポロポロと涙が溢れて、胸がきつく締め付けられた。マットのせい、だよ。

「大丈夫だよ、俺がいるから」

そっと抱締められるとあたしはもう、マットしか見えなくなって、部屋にたちこめていた知らないにおいも、マットの煙草のにおいで包まれて、全部消えた。

「マット、愛してるよ」 「しってる、俺も愛してるから」
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