今夜は冷えるから、なにか温かいものを作ろうと思った。
なにがいいのか色々と考えを巡らせて、野菜スープやコーンポタージュなどが思いついたが生憎今は冷蔵庫に殆ど食材が残っていなかった。
ここ最近は忙しくてファーストフードで済ませていたからだ。
そして、結局もっとも簡単なホットミルクに決まった。
役立たずな冷蔵庫にもミルクぐらいは入っていたみたいだ。
食器棚からカップを2つ取り出して、ミルクを注いでいった。
電子レンジへ運んで、1分を設定。
たったこれだけの作業で温かいミルクが飲めるなんて、
なんて便利なのだろうと柄にもなく考えていると丁度1分経って、出来上がりを知らせるためにピピッと鳴った。
乱暴に置かれた調味料の中から砂糖を探して、スプーンですくってホットミルクの中へと溶かした。
しんと静まり返った室内には、スプーンとカップがぶつかり合うカチャカチャという音が小さく響いた。
白の湯気を出しているホットミルクの入ったカップを2つ両手に持って、それが零れてしまわないようにそっと歩き出した。
「メロ」
そう名前を呼ぶと、今までキラの資料とにらめっこをしていたメロはこちらに顔を向けた。
メロの隣にゆっくりと腰掛けて
「ハイ」
とさっき作ったばかりのホットミルクを手渡した。
「ああ」
そっけない返事しか返ってこなかったけど、いつものことなので今更気にするつもりはない。
今の返事はメロにとっては多分ありがとうと同じ意味だとあたしは思ってるから。
メロの言葉から様々な感情を読み取る事は簡単じゃない。
でも、あたしはちゃんとそれなりにメロのことを理解しているつもり。
あたしの解釈だから多少あたしにとって都合よくとってることもあるかもしれないけど、
殆どのことはあたしの解釈で間違いないと思う。
あたしはメロのことをもっと知りたいと思ったからここまでこれた。
あたしだけは彼の特別でありたい。
「今夜は冷えるね」
「・・・ああ、少し肌寒い」
「そんな格好してるからでしょ」
そう言って軽く笑ってやると、「そうかもな」
とやけにアッサリと返事が返ってきて少し驚いた。
メロはホットミルクを一口含むと「甘い」と言った。
「メロのチョコよりは甘くないよ」
と少し皮肉を言ってやった。
だって、あたしは毎日毎日メロの大量のチョコを目にして気分が悪くなりそうになっているから。
ささやかな仕返し。
「俺のチョコは別だ」
「別ってどこが?」
「俺のはビターチョコだ
そんなに甘くはない」
へー、そうなんだ。とやけに納得していると、メロはまたいつもの様にチョコを食べた。
メロの話を聞いて、あたしの皮肉が全く無意味だったってことは分かったけど、
1日に何枚もチョコばっかり食べてる人を見るとやっぱり気持ち悪くなる。
甘いとか、苦いとかはあんまり関係ない。
メロはあたしと目が合うと、
「・・だからこのミルクとの相性も悪くはない」
と付け足した。
あたしはこの時のメロがよく分からなかったけど、とりあえず思ったことは、
作ったのもがスープやコーヒーじゃなくてよかったってこと。
だって、スープやコーヒーだとホットミルクと違ってなかなかチョコに合わないもの。
「・・よかった。やっぱり甘いものとほろ苦いものは相性がいいのね」
「ああ・・・」
メロの顔は再び資料の方へと戻された。
さっきからずっとホットミルクとチョコを食べている。
そんなに気に入ったのかな。
そんなことを考えながらも、さっきメロが言っていたチョコの種類の話等も考えた。
色々と考えていると、肩にくすぐったさを感じた。
肩に感じたものの正体は、メロの綺麗な金髪だった。
「・・メロ?」
「あ?」
「くすぐったいよ」
「・・・」
黙って肩から頭を離すのかと思っていると、今度はあたし自身がメロの長いくて細い、
そして綺麗に筋肉のついた両腕に抱きしめられていた。
最近はキラのことで頭がいっぱいでロクにあたしの相手もしてくれていなかったから突然の事に驚いた。
抱きしめてもらったのなんて、本当に久しぶりの感覚だった。
「ゎっ・・どうしたの?メロ??」
メロは抱きついたままの状態で、あたしの首に顔を埋めてそのまま話した。
「・・・、今夜は冷えるんだろ」
やっと顔を上げて目が合ったかと思うと、メロは独特の笑みであたしを見てきていた。
それも久しぶりで、なんだか懐かしくて、嬉しくて仕方がなかった。
抱きしめてくれているメロの体温が全身から伝わってきて、幸せだった。
「うん」
「じゃあ、今夜はずっと一緒にいてやる」
「え、本当?メロ」
キラのことしか頭になかった筈のメロが、今夜はあたしと一緒にいてくれると言うから、
これはあたしの都合のいい夢じゃないかと少し疑って、思わず「本当?」などと聞き返していた。
「ああ」
いつものそっけない返事。
なんて温かいんだろう。
久しぶりの温かさ。
人がこんなに温かいなんて忘れてた。
思い出せてよかった。
大好きな人の体温を胸に刻んでおこう。
忘れるなんて悲しい事もうしないよ。
本当に冷えていたのは、あたしの心。